介護事業お役立ちコラム

税理士・介護福祉経営士の【連載コラム】

介護職員処遇改善支援補助金がはじまりました!

「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年 11 月 19 日閣議決定)として、令和4年2月から、介護職員処遇改善支援補助金はじまりました。補助金をもらえる職員にとっては朗報かもしれませんが、事務手続きをする事業所にとっては、右から左に流れるだけのお金なので頭が痛いかもしれません。

介護職員処遇改善支援補助金とは

令和4年2月~9月の間、介護職員の処遇を改善するために支払われる補助金です。補助金は下記の計算式で計算されます。なお、これまでの介護職員処遇改善加算等と同様に訪問看護等の医療系サービスや福祉用具貸与、居宅介護支援は対象外となっています。

※1 各種加算減算には、処遇改善加算と特定処遇改善加算分が含まれます。

※2 サービス別交付率は「令和4年度(令和3年度からの繰越分)介護職員処遇改善支援事業(令和3年度補正予算分)の実施について」より抜粋した下記表1をご覧ください。

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今回の介護職員処遇改善支援補助金は、介護職員一人当たり平均9,000円を引き上げる措置とされています。しかし、これまでの処遇改善加算と同様に謳われた金額が入ってくるわけではありません。その一方で怖いのは、介護職員間でこの9,000円が独り歩きすることです。事前に事業所から説明をしておかないと事業所と職員の間で、わだかまりが生じてしまうかもしれません。

さて、この9,000円ですが、介護事業所の稼働率が100%に近い状態で経営されていなければ実現できません。さらに、介護職員数がサービスで決められた人員基準よりも多い場合も一人あたりの金額は減ってしまいます。また、介護職員等特定処遇改善と同じくその他の職員にも支払うことができますので、その他の職員を支払い対象に含めるとなるとなおさら一人当たりの金額は少なくなります。

その他の職員に対して支払う場合、介護職員等特定処遇改善のようなルール(2:1:0.5)は今回の補助金では設定されていません。ただし、あまりにもその他の職員を厚遇して配分してしまうと本来の趣旨から外れてしまいます。令和4年1月31日に公表された「介護職員処遇改善支援補助金に関するQ&A(令和4年1月31日)」の問12でも、他の職員に対しての配分は、介護職員の処遇改善を目的とした補助金であることを踏まえてお願いしたいとなっています。

その他の職員の範囲は、これまでの介護職員等特定処遇改善と同じです。本部機能など直接介護をしていない職員についても、算定対象サービス事業所における業務を行っていると判断できる場合には対象に含まれます。(参照:「2019 年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.2)(令和元年7月 23 日)」の問13)

介護職員処遇改善支援補助金の対象となる要件

この補助金を受けるための要件は以下①~③のすべてです。

① 介護職員処遇改善加算Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのいずれかを取得していること

これは、令和4年2月サービス提供分以降について介護職員処遇改善加算(Ⅰ)、(Ⅱ)又は(Ⅲ)を算定していることを意味します。令和4年2月分の介護サービス提供分について、介護職員処遇改善加算(Ⅰ)、(Ⅱ)又は(Ⅲ)について算定していない場合は、今回の補助金は対象となりません。

② 令和4年2月分から賃金改善を実施すること

ただし、2月分を3月分にまとめて賃金改善することも可能です。また、本来の賃金改善はベースアップといった定期額の昇給ですが、2月分、3月分については一時金での支給も認められています。そして、賃金改善分の給料の支払時期ですが、例えば末締めの翌月25日支払いのお給料の場合は、そのサイクルに則って、2月分は3月25日支払い、3月分は4月25日支払いとなります。

③ 補助金の全額を賃金改善に充てること

補助金合計額の2/3以上は、「基本給」または「決まって毎月支払われる手当」としての支払いに充てる必要があります。つまり、今回のルールは原則ベースアップとして支払わなければいけないということです。そのため、月ごとに支払われるかどうかが不明な手当や毎月変動するような手当、その他、労働と直接関係のない手当(通勤手当や扶養手当)など個人の事情によって変わる手当として支給することはできません。

補助金合計額の1/3は一時金等として精算して良いことになっています。これはコロナの影響で見込みの補助金が得られない場合、事業所の持ち出しとなってしまうので、一時金で調整し、事業所の持ち出しを防ぐ狙いだと理解できます。社会保険料についてはこれまでの介護職員処遇改善手当等と同様に補助金から充てることができます。

その他の注意点としては、介護職員のほか、その他の職員にも支給する場合でも、介護職員グループ、その他のグループともに補助金合計額の2/3以上をベースアップとして支給していく必要があるということです。

④ 交付要件+α

要件は以上の①~③ですが、補助金を受けることになった場合、賃金改善を行う方法等について計画書を用いて職員に周知するとともに、就業規則等の内容についても職員に周知することとなっています。

補助金の申請手続き、支払い、実績報告について

申請は法人一括や事業所単位で行うことになりますが、法人一括申請が便利かと思います。法人一括申請の場合、賃金改善額の合計額をサービスの垣根を越えて支払うことができます。これによって、交付率の高いサービスと低いサービスとの間で不平や不満が出にくく人事異動にも支障をきたしません。

補助金を受けるためには、まず、賃金改善の報告が必要です。原則として令和4年2月末日までの報告を求めています。ただし、令和4年3月分とまとめて同年2月分の賃金改善分の支給を行う場合は、同年3月末日までの報告とすることになります。 また、やむを得ない事情により、令和4年2月分から賃金改善を行っているにもかかわらず未報告であった場合には、処遇改善計画書の提出時に併せて報告を行うことになります。なお、提出先は都道府県になります。地域密着型サービスについても、提出先は都道府県です。

さらに、介護職員処遇改善計画書を令和4年4月15日までに都道府県に提出する必要があります。そのため、従来からある介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算の提出期限と重なります。

介護職員処遇改善支援補助金は、令和4年6月に令和4年2月~4月分が支払われます。その後は毎月支払われ、最終的には、9月分が11月に支払われて終了となります。補助金の支払い後、介護職員処遇改善実績報告書を令和5年1月31日までに都道府県に提出することになります。

令和4年9月でこの介護職員処遇改善支援補助金は終了します。10月以降は、別の形で存続することが決まっています。急きょ決まった介護職員処遇改善支援補助金ですが、処遇改善加算関係が3本立てとなり事務手続きが煩雑なので、簡素化を期待しています。10月以降の形は、6~7月ごろには決まり、8月にはその新しい処遇改善加算の受付が始まります。そのため、令和4年10月以降については臨時で介護報酬が改定されます。

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最後に

介護職員処遇改善支援補助金は、事業所には1円も落ちることなくすべて職員に支払われるお金です。それどころか、就業規則や給与規程の変更を伴うため、場合によっては社会保険労務士に別途報酬を支払う必要が出てくることでしょう。さらに、年度初めで事務方の事務量は増える一方です。補助金の取得に気が進まない事業所の気持ちもわかります。しかし、国があげるといっているお金をみすみす逃すことはないと思います。事業所全体のお給料が増えれば、今よりも職員の定着率向上や職員の確保がしやすくなります。どこの事業所も申請してきます。もし、申請しなかったら、自事業所で働いてくれる職員は、会社が自分たちのことを考えてくれていないと思ってしまうかもしれません。ぜひ申請しましょう。

参考資料

厚生労働省Q&Aについて

介護保険最新情報 Vol.1031(令和4年1月31日厚生労働省老健局老人保健課事務連絡)
「介護職員処遇改善支援補助金に関するQ&A(令和4年1月31日)」の送付について

https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2022/0131171414837/ksvol.1031.pdf [WAMNETのホームページが開きます]

介護保険最新情報 Vol.734(令和元年7月23日厚生労働省老健局老人保健課事務連絡)
「2019 年度介護報酬改定に関する Q&A(Vol.2)(令和元年7月 23 日)」の送付について
https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2019/0723150802628/ksvol734.pdf [WAMNETのホームページが開きます]

介護職員処遇改善支援補助金について

介護保険最新情報 Vol.1030(令和4年1月26日 厚生労働省老健局老人保健課事務連絡)
介護職員処遇改善支援補助金に係る介護サービス事業所・施設等向けリーフレット及びコールセンターの設置について

https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2022/0128163546802/all.pdf [WAMNETのホームページが開きます]
・ 「介護職員処遇改善支援金」のご案内リーフレット
・ 令和4年度(令和3年度からの繰越分)介護職員処遇改善支援事業(令和3年度補正予算分)の実施について ・・・【記事内に抜粋したサービス別交付率はこの資料に含まれます】
・ 別紙様式2-1 介護職員処遇改善支援補助金計画書
・ 別紙様式3-1 介護職員処遇改善支援補助金実績報告書
・ 別紙様式4 介護職員処遇改善支援補助金に係る特別な事情に係る届出書

介護保険最新情報 Vol.1026(令和3年12月27日 厚生労働省老健局老人保健課事務連絡)
「介護職員処遇改善支援補助金」について

https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2021/1227173820621/ksvol.1026.pdf [WAMNETのホームページが開きます]

介護職員処遇改善支援補助金について|東京都福祉保健局https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kourei/hoken/kaigo_lib/shogukaizen_shien_hojokin.html [東京都福祉保健局のホームページが開きます]

 (報告様式例)記載内容のイメージ
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kourei/hoken/kaigo_lib/shogukaizen_shien_hojokin.files/hokoku_yoshikirei.pdf [東京都福祉保健局のホームページが開きます]
※報告様式は、令和4年2月4日時点ではイメージとなっております。確定版は各都道府県のホームページでご確認ください。

令和4年10月以降の介護職員の処遇改善に係る措置

令和4年10月以降の介護職員の処遇改善に係る措置について(令和4年1月19日付厚生労働省事務連絡)https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kourei/hoken/kaigo_lib/shogukaizen_shien_hojokin.files/shogukaizen_sochi.pdf [東京都福祉保健局のホームページが開きます]

著者紹介

税理士藤尾智之先生

藤尾智之(ふじお ともゆき)氏
税理士・介護福祉経営士
1996年、法政大学経済学部卒業
2000年、社会福祉法人に入職後、特別養護老人ホームの事務長として従事する。
2011年に税理士試験に合格し、大手税理士法人を経て藤尾真理子税理士事務所に入所。介護、障害を中心とした社会福祉事業に特化した経営サポートを展開する一方、社会福祉法人の理事や監事、相談役を務める。
著書に「税理士のための介護事業所の会計・税務・経営サポート」(第一法規)がある。
さすがや税理士法人URL: https://fujio-atf.jp/

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