介護事業お役立ちコラム

税理士・介護福祉経営士の【連載コラム】

実地指導に強くなる(前編)

実地指導は介護保険法第24条他の規定により行われる

実地指導は介護事業とは切っても切れない関係です。それは、介護保険法第24条やその他の法律に基づいて保険者が介護サービス事業者等が法令や基準、通達に対して適合しているか確認しなければいけないからです。実地指導は、少なくとも指定有効期間内の6年以内に1度は行うこととなっています。そうはいってもコンビニエンスストアよりも多い数の介護事業者があることから、一度も実地指導を受けたことがない事業者もあるようです。そこに、新型コロナウイルスの影響によって実地指導が延期・中断される状況になっていることから、実地指導は来ないんじゃないかと思っている方もいらっしゃると思います。

ところが最近になって保険者から介護事業者に実地指導の日程調整の電話がかかっています。たまたま某県の福祉監査室のホームページを見たところ、「令和3年度の介護保険施設等実地指導は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策を講じたうえで、令和3年9月から開始する予定です。」と公表されていました。本格的に実地指導が再開したと感じています。

実地指導について確認しよう

実地指導は指導監査官が来て、鬼のような形相で介護事業所の粗探しを行って、ミスを見つけ誰かを吊るし上げるというものではありません。実地指導を受けた経験がないと「怖いもの」というイメージがあるかもしれませんが、そのようなことはありません。意外と和やかに行われます。先日立ち会った実地指導では、指導調査官が冒頭の挨拶で和気あいあいとやりましょうとおっしゃっていました。

実地指導は、予告実地指導と無予告実地指導に分けられます。一般的な実地指導は、前者の予告のある指導で、実地指導日の約1か月前にあらかじめ通知書が郵送されてきます。通知の前に電話があり日程を調整する場合がありますので、いずれにしても予告があってから開催されます。一方で後者の無予告による実地指導は、虐待の疑いや法令が順守されていないなどの情報に基づいて保険者がそれを確かめるために突然やってくるというものです。そのため、無予告実地指導は、「今日は都合が悪いので別の日にしてほしい。」との要望は当然に聞き入れられずに強制的に行われます。私自身も私のクライアントについても無予告実地指導を経験したことはありませんが、無予告実地指導が行われる背景には、スタッフや利用者、利用者家族等が行政や国保連に苦情を申し入れた場合に、それが重大な法令違反の疑いがあれば行われるようです。

事前通知文書とは

実地指導を行う旨の事前通知文書には、実施期日や指導対象のサービス名、当日実地指導を行う役所の担当者の氏名のほかに、事前準備資料や事前提出資料が案内されています。

事前準備資料は、自主点検表(票)とそのほかの資料に区分されます。自主点検表(票)は、自己点検表(票)とも呼ばれます。自主点検表(票)は都道府県や市区町村のホームページで公開されています。実地指導の有無にかかわらず介護事業者はいつでもダウンロードして自主点検できるようになっています。事前準備資料にあるそのほかの資料は、従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表や運営規程及び重要事項説明書、事業所(施設)平面図等です。

事前提出資料は、事前準備資料そのものですが、事前準備資料のほかに追加で求められる書類がある場合があります。例えば、パンフレットや職員給与明細表、就業規則等の規則類があります。事前提出書類は提出期限が決められていますので確実に必要部数を揃えて期日までに提出するようにします。

実地指導当日に準備しておく書類

実地指導当日に準備しておく書類があります。これらの書類は事前通知文書の別添として案内されています。下記の書類が主なものとなります。

・組織図(兼務状況がわかる書類)
・職員勤務表(シフト表、直近3ヶ月分)
・タイムカード又は出勤簿
・職員の資格を証する書類
・雇用契約書及び辞令
・利用契約書及び同意に関する書類
・サービス提供計画書(ケアプランを含む)
・サービス提供の記録(日報、業務日誌)
・職員の研修に関する書類
・非常災害対策及び緊急連絡体制等に関する書類
・事故防止対応マニュアル、事故に関する記録
・苦情処理マニュアル、苦情に関する記録
・介護給付費請求書及び明細表(直近3か月分)
・利用者に対する請求書、領収証の控(直近3か月分)
・加算の算定要件が整っていることを確認できる書類(計画書、計算書、実績報告書、実施記録など)
・会計関係書類(事業ごとに分けられているもの)
・利用者(入所者)名簿
・直近3か月の利用者数がわかる資料
・利用者の要介護度がわかる資料
・指定申請書類・指定更新申請書・変更届出書類の控え

実地指導当日の流れ

実地指導当日、実地指導担当職員として、運営管理担当1名、処遇担当1名、場合によっては会計担当1名がセットで来所されます。午前9時から開始され通常は夕方までの1日行われます。最近は、半日型の実地指導が行われていると聞いています。お昼までに終わることや、午後から始まる実地指導もあるかもしれません。

実地指導は、最初に事業所内の巡視が行われます。ただし、昨今は新型コロナウイルス感染症の予防の観点から中止となっているケースが多いようです。実地指導担当職員の挨拶後に早々に書類のチェックが行われます。

実地指導は、運営管理用、処遇用、(場合によっては会計用)とそれぞれ独立したテーブルを用意します。そのテーブルの上に事前準備資料を、テーブル周辺に当日準備書類を整然と並べておきます。実地指導は、厚生労働省老健局総務課介護保険指導室長が令和元年5月29日に発出した「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」の別紙で示されている、標準確認項目と標準確認文書が使用されます。実地指導担当者は、この書類を見ながら進めます。この書類に記載されていない内容や項目については、原則的には確認されないことになっています。なお、確認される書類は、実地指導が行われる前年度から直近の1年間です。標準確認項目の中で文書や記録が確認できない項目について随時実地指導の中で指摘していきます。

標準確認項目について全ての確認が終わると実地指導担当者は、介護事業者側に15分ほど席を外すように言います。15分は、実地指導担当者が指導内容をまとめる時間です。その後介護事業者側に集まるように言われ、指導内容が発表されます。その内容は、実地指導中で指摘された内容で、新しいことはありません。指導内容は3つに分けられます。

指摘事項・・・文書で通知し後日介護事業者から回答を求めるもの

注意事項・・・文書で通知するが、報告は不要。改善を要するもの

その他の事項・・・この発表による口頭注意のみだが、改善を要するもの

文書は1か月~2か月ほどで郵送されてきます。指摘事項については期日までに改善報告をしなければいけません。

次回、「実地指導に強くなる(中編)」では実際に実地指導で得られた情報に基づいて運営や共通の指摘事項で指導されやすい事項についてまとめていきたいと思います。

参考URL

「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」(介護保険最新情報 Vol.730)(WAMNETのホームページが開きます)

著者紹介

税理士藤尾智之先生

藤尾智之(ふじお ともゆき)氏
税理士・介護福祉経営士
1996年、法政大学経済学部卒業
2000年、社会福祉法人に入職後、特別養護老人ホームの事務長として従事する。
2011年に税理士試験に合格し、大手税理士法人を経て藤尾真理子税理士事務所に入所。介護、障害を中心とした社会福祉事業に特化した経営サポートを展開する一方、社会福祉法人の理事や監事、相談役を務める。
著書に「税理士のための介護事業所の会計・税務・経営サポート」(第一法規)がある。
さすがや税理士法人URL: https://fujio-atf.jp/

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