介護職員の人材確保をさらに推し進め、介護現場で働く方々にとって、令和6年度に+2.5%、令和7年度に+2.0%のベースアップへとつながるよう、令和6年6月1日から従来の処遇改善関連の3つの加算の一本化と、加算率の引き上げが行われました。事務負担の軽減や柔軟な事業所運営が期待される新加算の制度概要について確認しておきましょう。

とりあえず概要だけ知りたい方はこちらの記事がおススメです
【超短縮版】令和6年(2024年)介護職員等処遇改善加算の一本化と加算率の引き上げについて
【従来の三加算】
令和4年4月1日から令和6年5月31日まで

介護職員処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)

介護職員等特定処遇改善加算(Ⅰ)(Ⅱ)

介護職員等ベースアップ等支援加算

【新しい処遇改善加算(一本化)】
令和6年6月1日から

介護職員等処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅳ)

介護職員等処遇改善加算(Ⅴ)

※ 介護職員等処遇改善加算(Ⅴ)(1)~(14)は、令和7年3月31日まで算定可能な経過措置区分。

ポイント

・事業所内の職種間配分ルールが大幅に緩和され、令和6年4月以降事業所内で柔軟に配分することが可能となります

・キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲは令和6年度中は誓約でOK、令和6年4月から要件緩和となります

・月額賃金改善要件、職場環境等要件は新規に増える要件ですが、令和6年は適用されず、令和7年度から適用されます

→ 例えば、これまでキャリアパス要件や職種間配分ルールがネックとなって特定処遇改善加算が算定できなかった事業所も令和6年4月分から上位区分の処遇加算Ⅰや特定加算Ⅱを算定しやすくなります。さらに令和6年6月からの加算率の引き上げの効果も得られます。

新加算取得準備に向けて激減緩和のための経過措置があります

令和6年度末(令和7年3月31日)までは加算率や要件の変更による激減緩和の経過措置として「介護職員等処遇改善加算(Ⅴ)」があります。従来の三加算の組み合わせに応じた、介護職員等処遇改善加算(Ⅴ)1~14で加算率を維持した上で、改定による加算率の引き上げを受けることができます。

新しい処遇改善加算「介護職員等処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅳ)」の算定要件は?

新しい処遇改善加算「介護職員等処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅳ)」(以下、新加算(Ⅰ)~(Ⅳ))の算定要件は新設・見直しを行う要件を除き、基本的には従来の三加算の要件を組み替え、3種類に整理されたものです。

1.キャリアパス要件

導入に時間がかかると考えられるキャリアパス要件Ⅰ~Ⅲは、現状で要件を満たしていなくても令和6年度内の対応を誓約することで令和6年4月分から要件を満たしたこととなります。改定は令和6年6月からですが、令和6年4月から加算をとりやすくする要件緩和措置となっています。

キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系)【新加算Ⅰ~Ⅳ】

介護職員について、職位、職責、職務内容等に応じた任用等の要件を定め、それらに応じた賃金体系を整備する。

キャリアパス要件Ⅱ(研修の実施等)【新加算Ⅰ~Ⅳ】

介護職員の資質向上の目標や以下のいずれかに関する具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施又は研修の機会を確保する。

a 研修機会の提供又は技術指導等の実施、介護職員の能力評価
b 資格取得のための支援(勤務シフトの調整、休暇の付与、費用の援助等)

キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み)【新加算Ⅰ~Ⅲ】

介護職員について以下のいずれかの仕組みを整備する。

a 経験に応じて昇給する仕組み
b 資格等に応じて昇給する仕組み
c 一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み

キャリアパス要件Ⅳ・Ⅴは従来の特定加算の要件に相当する内容です。

キャリアパス要件Ⅳ(改善後の賃金額)【新加算Ⅰ・Ⅱ】

経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善後の賃金額が年額440万円以上であること。

小規模事業所等で加算額全体が少額である場合などは、適用が免除されます。

キャリアパス要件Ⅴ(介護福祉士等の配置)【新加算Ⅰ】

サービス類型ごとに一定割合以上の介護福祉士等を配置していること。

2.月額賃金改善要件

月額賃金改善要件Ⅰは令和7年度から適用、月額賃金改善要件Ⅱは令和6年5月までにベースアップ等加算を算定していない事業所のみに適用されます。

月額賃金改善要件Ⅰ【新加算Ⅰ~Ⅳ】

新加算Ⅳ相当の加算額の2分の1以上を、月給(基本給又は決まって毎月支払われる手当)の改善に充てる。

現在、加算による賃金改善の多くを一時金で行っている場合は、一時金の一部を基本給・毎月の手当に付け替える対応が必要になる場合があります。(賃金総額は一定のままで可)

月額賃金改善要件Ⅱ【新加算Ⅰ~Ⅳ】

前年度と比較して、現行のベースアップ等加算相当の加算額の3分の2以上の新たな基本給等の改善(月給の引上げ)を行う。

新加算Ⅰ~Ⅳへの移行に伴い、現行ベア加算相当が新たに増える場合、新たに増えた加算額の3分の2以上、基本給・毎月の手当の新たな引上げを行う必要があります。

3.職場環境等要件(令和7年度以降)

令和6年度中は経過措置期間として従来と同等で要件を満たしたものとされます。令和7年度以降の職場環境等要件は、介護職員の働きやすい環境づくりを進めるため、取り組むべき項目数を増やし、一方で事業所の事情に応じて取り組みやすいよう選択肢を増やすなどしています。令和6年度中に準備を進めましょう。

新加算Ⅰ・Ⅱ:以下の区分ごとにそれぞれ2つ以上(生産性向上は3つ以上、⑰または⑱は必須)取り組んでいる。情報公表システム等で実施した取組の内容について具体的に公表する。

新加算Ⅲ・Ⅳ:以下の区分ごとにそれぞれ1つ以上(生産性向上は2つ以上)取り組んでいる。

区分具体的内容
入職促進に向けた取組①法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化
②事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築
③他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経験者・有資格者等にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築(採用の実績でも可)
④職業体験の受入れや地域行事への参加や主催等による職業魅力度向上の取組の実施
資質の向上や
キャリアアップに向けた支援
⑤働きながら介護福祉士取得を目指す者に対する実務者研修受講支援や、より専門性の高い介護技術を取得しようとする者に対するユニットリーダー研修、ファーストステップ研修、喀痰吸引、認知症ケア、サービス提供責任者研修、中堅職員に対するマネジメント研修の受講支援等
⑥研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動
⑦エルダー・メンター(仕事やメンタル面のサポート等をする担当者)制度等導入
⑧上位者・担当者等によるキャリア面談など、キャリアアップ・働き方等に関する定期的な相談の機会の確保
両立支援・多様な働き方の推進⑨子育てや家族等の介護等と仕事の両立を目指す者のための休業制度等の充実、事業所内託児施設の整備
⑩職員の事情等の状況に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した非正規職員から正規職員への転換の制度等の整備
⑪有給休暇を取得しやすい雰囲気・意識作りのため、具体的な取得目標(例えば、1週間以上の休暇を年に●回取得、付与日数のうち●%以上を取得)を定めた上で、取得状況を定期的に確認し、身近な上司等からの積極的な声かけを行っている
⑫有給休暇の取得促進のため、情報共有や複数担当制等により、業務の属人化の解消、業務配分の偏りの解消を行っている
腰痛を含む
心身の健康管理
⑬業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等相談体制の充実
⑭短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、従業員のための休憩室の設置等健康管理対策の実施
⑮介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、職員に対する腰痛対策の研修、管理者に対する雇用管理改善の研修等の実施
⑯事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備
生産性向上
(業務改善及び
働く環境改善)のための取組
⑰厚生労働省が示している「生産性向上ガイドライン」に基づき、業務改善活動の体制構築(委員会やプロジェクトチームの立ち上げ又は外部の研修会の活用等)を行っている
⑱現場の課題の見える化(課題の抽出、課題の構造化、業務時間調査の実施等)を実施している
⑲5S 活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備を行っている
⑳業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減を行っている
㉑介護ソフト(記録、情報共有、請求業務転記が不要なもの。)、情報端末(タブレット端末、スマートフォン端末等)の導入
㉒介護ロボット(見守り支援、移乗支援、移動支援、排泄支援、入浴支援、介護業務支援等)又はインカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器 (ビジネスチャットツール含む の導入
㉓業務内容の明確化と役割分担を行い、介護職員がケアに集中できる環境を整備。特に、間接業務(食事等の準備や片付け、清掃、ベッドメイク、ゴミ捨て等)がある場合は、いわゆる介護助手等の活用や外注等で担 うなど 、役割の見直しやシフトの組み換え等を行う。
㉔各種委員会の共同設置、各種指針・計画の共同策定、物品の共同購入等の事務処理部門の集約、共同で行うICT インフラの整備、人事管理システムや福利厚生システム等の共通化等、協働化を通じた職場環境の改善に向けた取組の実施
※生産性向上体制推進加算 を取得している場合には、「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」の要件を満たすものとする
※小規模事業者は、㉔の取組を実施していれば、「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」の要件を満たすものとする
やりがい・働き
がいの醸成
㉕ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の介護職員の気づきを踏まえた勤務環境やケア内容の改善
㉖地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上に資する、地域の児童・生徒や住民との交流の実施
㉗利用者本位のケア方針など介護保険や法人の理念等を定期的に学ぶ機会の提供
㉘ケアの好事例や、利用者やその家族からの謝意等の情報を共有する機会の提供

令和6・7年度の処遇改善加算の配分方法

厚生労働省は、介護現場で働く方々の賃上げへとつながるよう、令和6年度の介護報酬改定による加算措置の活用や賃上げ促進税制の活用を組み合わせることにより、令和6年度に+2.5%、令和7年度に+2.0%のベースアップを実現するようお願いしています。

令和6年度の報酬改定では、処遇改善加算分について2年分を措置しており、令和7年度分を前倒しして、賃上げすることも可能です。また、※前倒しした令和6年度の加算額の一部を令和7年度に繰り越して賃金改善に充てることも可能です。

賃上げ促進税制とは?

事業者が賃上げを実施した場合に、賃上げ額の一部を法人税などから控除できる制度で、大企業・中堅企業は賃上げの最大35%、中小企業は最大45%を法人税などから控除できます。
詳しくは経済産業省のホームページをご確認ください。

賃上げ促進税制 [経済産業省のホームページが開きます]

参考サイト

こちらでご紹介した内容は厚生労働省の「介護職員の処遇改善」ページの制度概要の説明動画の内容を中心に構成しました。具体的な申請方法や、自事業所の推奨の移行パターンを算出できる移行ガイドなども掲載されています。詳細は厚生労働省や事業所の所在する都道府県のホームページをご確認ください。

厚生労働省 介護職員の処遇改善 [厚生労働省のホームページが開きます]

独立を検討するときに忘れちゃいけない介護ソフトについて

ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございました。このように業務の複雑さが増す中で、介護請求や介護記録の作成に悩まれているご担当者様も多いかと思います。

令和6年度の介護報酬改定では、介護ロボットやICT等のテクノロジーの導入による業務改善を評価する「生産性向上推進体制加算」が新設されました。「手書きの介護記録を何度も転記する必要があり時間をとられている」「ICTの活用を進めたいが職員がパソコンやタブレットを使いこなせるか心配」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひこちらをご覧ください。