介護事業お役立ちコラム

税理士・介護福祉経営士の【連載コラム】

2021年度介護保険改正法が成立

新型コロナウィルスの影響により、表立って話題になっていなかった改正介護保険法案が成立しました。令和元年12月まで社会保障審議会 (介護保険部会)で議論されてきた改正項目ですが、令和元年10月の消費増税の影響等により、国民に直接影響を及ぼす内容は先送りにされました。先送り項目の議論は次回の改正に向けて継続協議されます。今回は、改正された内容を確認していきましょう。

地域包括支援センターの役割の強化

断らない相談支援として、地域包括支援センターの役割を強化させることになりました。すでに介護保険制度の地域窓口として中核を担っている“地域包括”ですが、重層的支援体制整備事業として、さらに役割が増します。近年、高齢の親と中年となった引きこもりの家庭問題(8050問題)が注目されています。親が高齢になるにつれて介護が必要となったときに、子供はどうすることもできず、親子共倒れの可能性が出てきます。そのため、地域包括支援センターを介護(地域支援事業)、障害(地域生活支援事業)、子供(利用者支援事業)、貧困(生活困窮者自立相談支援事業)、参加支援(就労支援、居住支援、居住地機能の提供等)の相談窓口として一本化を図りたいと考えています。これらは、多様な社会参加に向けた支援です。

しかしながらこの取り組みは市区町村の判断に委ねられます。周知の事実ですが、すでに業務で手がいっぱいの地域包括支援センターにさらなる業務を加えることとなるので、この重層的支援体制整備事業が広がっていくか不透明です。もし、この事業が前に進めばおのずと地域包括支援センターの業務調整の観点から、予防介護ケアプラン作成のさらなる外注化や委託費の値上げが期待できます。

高額介護サービス費の引き上げ

医療保険の高額療養費制度と同じように介護保険にも高額介護サービス費制度があります。介護保険の高額介護サービス費は、医療保険の高額療養費と同一とするルールがあるため、すでに引き上げられている医療保険の高額療養費まで介護保険の高額介護サービス費も引き上げられます。具体的には、年収約1,160万円以上の利用者の場合の上限は140,100円へ、年収約770万円~約1,160万円の場合の上限は93,000円へとなります。年収約383万円~約770万円の場合の上限は44,400円と現状維持となります。結果として高所得者にとって厳しい改正となります。

補足給付の対象者の縮小

介護保険施設やショートステイを利用する低所得者に対して行われる食事代及び室料への公的補助ですが、第3段階(利用者本人の年金収入等が80万円超かつ世帯全員の住民税が非課税)をさらに①と②の 2 区分に分けることとなりました。第 3 段階①は、世帯全員が住民税非課税で、かつ利用者本人の年金収入等 が80 万円超 かつ120 万以下であること、第 3 段階②は、世帯全員が市町村民税非課税かつ本人の年金収入等が 120 万円超であることされました。この場合、第 3 段階②において月 22,000 円の負担増となります。現在の第3段階の利用者数は31.4万人と補足給付対象者全体の6割を占めるため、多くの方に影響が生じると考えられます。

さらに、ショートステイでは食費部分の補足給付が見直されます。第2段階、第3段階①の負担限度額が引き上げられます。これは、食費が補足給付対象外となっているデイサービスとの均衡の観点から行われるものです。改正後の負担額は1日あたり、第2段階で210円増、第3段階①で350円増、第3段階②で650円増となります。結果として1日あたりの補足給付額は、第1 段階は 1,947 円(変更なし)、第 2 段階では1,277 円、第 3 段階①は 877 円、第 3 段階②は577 円となります。ショートステイでは1か月近く入所される利用者もいらっしゃいます。その場合、食費だけでも1か月あたり数千円~1万円強の負担増になります。そのため、ロングショートを希望される常連利用者に対して事前に説明しておく必要があります。

また、給付を受けるための資産要件も変更されます。収入が低いために補足給付の対象となる場合でも、一定金額以上の預金残高を有している場合は、補足給付は受けられません。この現在の基準である単身者 1,000 万円以下の預金残高を第 2段階では 650 万円以下へ、第 3 段階①では550 万円以下へ、第 3 段階②では、500万円以下と見直しされます。

これまで、介護老人福祉施設は有料老人ホームと比べて費用が安く、同じようなサービスを提供する有料老人ホームから見ればずるいと思われていても仕方がありませんでした。しかし、その介護老人福祉施設の利用料を減免させるこのような補足給付の対象者が限られてくると、いよいよ有料老人ホームと費用面で差がなくなります。近隣に介護老人福祉施設がある有料老人ホームを経営する事業者にとっては、この改正をチャンスととらえてみてはいかがでしょうか。

居宅介護支援事業所の管理者要件の見直し

居宅介護支援事業所の管理者を主任介護支援専門員に限定する平成30年度改正によって、猶予期間とされていた令和3年3月31日があと1年と迫っていました。しかし、この猶予期間がさらに6年間延長されて令和9年3月31日までとなりました。ただし、令和3年4月1日以降に新規にオープンする場合や管理者が変更となる場合は主任介護支援専門員であることが求められます。(不測の事態や中山間地域等の特殊な場合は特例が用意されています。)

社会福祉法人を中核とする非営利連携法人の創設

社会福祉法人は税制面で優遇されているので、一般的に経営や資金繰りの心配がないように思われがちですが、とりわけ小規模の法人、特に1法人1施設や施設の規模が入所者数40~50人定員規模の経営状態は厳しい状態にあります。そのため、資金面、人材面、購買面で非効率な経営となったり、そもそもチャレンジしない経営方法となったりとますます負のスパイラルに陥ります。

そこで、社会福祉法人を中核とした非営利連携法人の設立が認められるようになります。ここで、中核とありますが、非営利連携法人に参加する社会福祉法人数が過半数あれば、社会福祉法人以外の民間介護事業所も参加可能です。

この非営利連携法人の目的は、小さな法人も数が集まれば疑似的に大きな法人となるので、これまで小規模のためできなかった経営手法を採用できるようにすることです。例えば、求人広告を行う場合、1施設だけであれば、数万円の広告枠が精いっぱいだったかもしれませんが、たくさんの法人からお金を集めれば、非営利連携法人として大々的に広告を行うことができます。また、非営利連携法人で共通のリクルートページを作って、そこへ各法人のウェブサイトをリンクさせれば、興味のある転職希望者を自法人に誘導することも可能です。そのほか備品購入や研修等自社だけの力では難しい業務も共同購入、共同研修によって可能性が広がります。

また、資金に余裕のある社会福祉法人が非営利連携法人に参加した場合、非営利連携法人を通じて参加した他の社会福祉法人に貸し付けが可能となります。

住民主体の通いの場と総合事業の推進

平成29年4月からはじまった総合事業ですが、介護予防訪問介護、介護予防デイサービスは、ほとんど内容が変わらぬまま第1号訪問事業や第1号通所事業の中で、現行の介護サービス相当として引き継がれている状態です。そのため、要介護度1~2の軽度者とされる利用者の総合事業への移行はめどが立ちません。しかしながら介護保険制度の維持のためには、要介護度3~5の重度者を集中的に対象としていく方針に変わりはありません。

一方で、介護予防の観点から、体操や趣味活動を行える「通いの場」としてサロンが注目されています。このサロンは住民主体のボランティアによる運営となります。市区町村は、この通いの場を今後は類型化して住民主体の多様なサービスとして展開を図っていく考えです。そのため、今後は、サロンや介護事業所でボランティアした人へのポイント付与や有償ボランティアの推進等の取組等が重要視されます。住民主体による支援や住民ボランティア等が行う見守りサービスが拡充していけば、総合事業の受け皿が確実に準備されていくことになります。そして、準備が整えば、要介護度1~2の軽度者を総合事業へ移行していくことになり、それはもう遠い将来ではないと考えるべきです。

要介護度1~2の利用者が多い介護事業所の場合、介護保険から総合事業への移行が行われた場合、事業所の収入は確実に減少します。まだ先とは考えずに今から移行した時のことを想定して、準備を始めてみませんか。収支のシミュレーションだけでも構いません。どれほどの影響額があるのか経営者自身が知っておくことで次の行動が起こしやすくなります。

参考URL

2020年介護保険法改正(施行期日2021年4月1日)に関する情報は、厚生労働省の以下のページに公開されています。介護保険制度改正に関する最新情報の概要を知るにはこちらを参照するといいでしょう。

厚生労働省ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 福祉・介護 > 介護・高齢者福祉 > 介護保険制度の概要 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/index.html

先送りされた重要項目について

先送りされた重要項目についてはこちらの記事をご覧ください。
2021年度改正介護保険法案から先送りされた重要項目について

著者紹介

税理士藤尾智之先生藤尾智之(ふじお ともゆき)氏
税理士・介護福祉経営士
1996年、法政大学経済学部卒業
2000年、社会福祉法人に入職後、特別養護老人ホームの事務長として従事する。
2011年に税理士試験に合格し、大手税理士法人を経て藤尾真理子税理士事務所に入所。介護、障害を中心とした社会福祉事業に特化した経営サポートを展開する一方、社会福祉法人の理事や監事、相談役を務める。
著書に「税理士のための介護事業所の会計・税務・経営サポート」(第一法規)がある。
さすがや税理士法人URL: https://fujio-atf.jp/

 

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