介護事業お役立ちコラム

税理士・介護福祉経営士の【連載コラム】

2021年度改正介護保険法案から先送りされた重要項目について

今回の改正介護保険法案に盛り込まれず5年後の審議に先送りになった項目があります。その多くが国民にとって痛みのある項目です。それらが実際に改正されれば、介護事業経営に大きな影響を及ぼす可能性が高いものばかりです。決して5年後とは思わずに、いかにその影響を最小限にとどめられるか、また、チャンスと考えて先行的に取り組むか中長期計画の中で準備を進めていく必要があります。

介護保険料の負担年齢40歳以上を30歳以上に引き下げ?

40歳以上64歳以下の介護保険料負担者数が少子化の影響により2020年以降減少していくため、介護保険料負担者の確保、財源の維持をしなければいけません。そこで、2000年介護保険制度創設の際に根拠とされた、「介護保険料は65歳以上を親に持つ世代から負担してもらうのが望ましい」という考え方が生きてきます。2000年の時点では、65歳以上となる母親の第1子の年齢が40歳でしたが、現在から近い将来にかけて、晩婚化の影響により65歳以上となる母親の第1子の年齢が30歳代に下がります。これにより、65歳以上を親に持つ世代の再定義が可能になります。そのため、30歳以上に負担年齢を下げるべきだという議論につながります。

次回改正に負担年齢の引き下げが盛り込まれれば、介護事業所の法定福利費は確実に増えます。このところ、パートやアルバイトでも従業員が501人以上の会社の場合、週20時間以上働く方については社会保険の加入が義務化され、従業員が500人以下の会社であっても、労使で合意すれば、会社単位で社会保険に加入できるようになりました。5年後はさらに社会保険の適用範囲が見直されているかもしれません。対岸の火事とは考えずに人件費増を見込んでおく必要があると考えています。

介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院の多床室室料の自己負担化?

介護保険4施設のうち、介護老人福祉施設の個室及び多床室室料は、すでに介護保険給付から外されて自己負担となっています。ただし、介護老人福祉施設を除く3施設の多床室室料は引き続き介護保険給付されているため、公平性の観点からアンバランスな状態にあります。しかしながら、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院は生活の場としての機能だけではなく医療サービスや在宅支援も提供する施設となっていて、介護老人福祉施設と同列の議論をして良いのかという考え方や介護療養型医療施設等の介護医療院への転換が早急の課題であることから改正は見送られました。

継続審議となりますが、給付と負担の見直しに関する項目であり、介護保険制度維持のためにも、次回はそろそろ決着すると想定して影響額をシミュレーションしておく必要があります。

ケアマネジメント利用料金の自己負担1割導入?

居宅介護支援事業所のケアマネジャーのケアプラン作成報酬は全額介護保険から支払われています。要介護者等が積極的に介護保険サービスを利用できるように、介護保険制度創設時から10割給付のサービスと位置づけているからです。しかしながら、ケアマネジャーの専門性を評価する意味で利用者負担を求めるべきという考え方から他の介護サービス同様に1割負担を導入することが検討されました。ただし、利用者負担を導入した場合、今まで以上にケアプランへ利用者要望が強く反映してしまい、結果的に介護保険サービスの利用増加、介護保険給付費増加と介護保険制度の維持に逆行する流れになる可能性もあります。今回の改正は結論が出せぬまま継続審議となりました。

ケアプランと言えば、忘れてはならないのがビックデータに基づいた「AI」(人工知能)によるケアプラン作成支援が着々と進められていることです。次回の改正までに5年も時間があることからさらに精度の高いケアプラン作成支援ができるようになっているはずです。そのとき、AI加算のようなものが導入されるかもしれません。ケアマネジャーの仕事の仕方も変わっていくでしょう。主任介護支援専門員で更新をためらう方や介護支援専門員で経験豊富な方にとっては、今の仕事の仕方が変わることについてネガティブに考えてしまうかもしれません。次回の改正ではケアマネジャーの仕事環境が大きく変わる前提に立って、計画的に準備を進めていく必要があります。

訪問介護の生活援助サービス、デイサービスの要介護度1~2利用者の介護サービスを市町村総合事業に移行?

訪問介護の掃除洗濯等の援助サービスの要介護度1~2、デイサービスの要介護度1~2の軽度者についての市町村への移行は先送りとなりました。理由は、市町村の総合事業の受け皿が不足しているためです。今の状態で移行すれば多くの軽度者が介護難民になってしまうので、市町村の受け皿の整備が先となります。逆に考えると、次回改正までの5年間で受け皿の整備が整った場合、要介護度1~2の利用者の総合事業への移行は免れません。つまり、次回の改正では介護保険制度の転換期が訪れる可能性が高まっています。

そこで調べていただきたいのは、事業所の売上の中で、要介護度1~2の利用者は何人で、どれくらいの売上を占めているかということです。「厚生労働省 平成29年介護サービス施設・事業所調査の概況 2 居宅サービス事業所等の状況」によると、訪問介護では、要介護度1の割合が31%、要介護度2の割合は28.7%となっており、デイサービスでは、要介護度1の割合が36.1%、要介護度2の割合は30.6%となっています。

このデータから考えれば、事業所の60%の利用者が総合事業に移行してしまい、売上の多くがなくなってしまうことになり、その影響は計り知れません。もし、総合事業も対応することとした場合でも、現行程度のサービス提供をした時、受け取る報酬は現状の介護報酬の90%程度へ減額となると考えられます。どの事業所も利益率が▲10%となった場合、平然とはしていられないはずです。

まずは、要介護度3以上の利用者が増えるような戦略を考えること、そして総合事業はサービス提供の入り口と考えて新たに取り組んでいくことが必要ではないでしょうか。

現役並み所得と一定以上所得の判断基準について

平成27年8月から所得の高い利用者の自己負担額は2割負担、平成30年8月から特に所得の高い利用者の自己負担額は3割負担となっています。これは介護保険被保険者数の20%にのぼります。厚生労働省はこの割合を拡大させたいという思惑があるようですが、今回は先送りとなりました。

次回改正が行われた場合、負担の増す介護保険利用者は、高額介護サービス費の上限も上がっていることから、ますますの負担増を嫌って、介護サービスの利用回数を減らす「利用控え」を行うことも考えられます。そうなると事業所の売上は減ってしまうので、今からどのような対策がとれるのか考えていくことが大切です。

事業所の経営は介護保険だけに縛られない考え方も必要だと思います。例えば、訪問介護やデイサービスでは混合介護(又は選択的介護)の解禁に向けて検証が続けられています。混合介護は、保険給付でできるサービスとできないサービスを一体的に提供するサービスです。数年前から、東京都豊島区でモデル事業が進められてきました。モデル事業を参考に、自事業所でどのような混合介護のサービスが可能なのか、利用者にどんなニーズがあるのか今から考えてみませんか。

所得の高い方にとって、自分自身で価値があると判断すれば混合介護サービスにお金を支払ってくださいます。逆に所得の高い方ではない場合、できる限り介護保険サービスの中で完結することを望むはずです。そうなると、混合介護はどの層がターゲットになるかおのずとわかります。

補足給付の対象となる基準について資産要件の追加?

これまでの補足給付の対象要件に不動産を有する要件を追加する案は先送りにされました。戦後日本は住宅ローン控除制度を使って、自宅を所有させる政策をとってきています。もし、次回の改正でこの資産要件が加われば、団塊の世代の多くの方が該当してしまい、補足給付の対象から外れてしまう可能性が高まります。介護保険施設の利用料が上がっていくことで施設入所より在宅での介護を望む考え方も増えていくことも考えられます。入所が敬遠されると介護保険施設の経営は厳しいものとなります。介護保険施設やショートステイ事業所では、しっかりと新規の入居者・利用者が継続して紹介や申し込みがあるように戦略を練っていく必要があります。

現金給付の導入?

家族介護者向けの現金給付は、家族介護を強いることや介護の社会化という介護保険制度の理念に逆行するとの考えから先送りとなりました。しかし、介護報酬の削減の観点から介護事業者に支払う報酬よりも少ない金額を現金給付すれば、介護報酬全体の圧縮を図ることも可能かもしれません。総務省では、銀行口座の1つにマイナンバー紐づけを義務化したいとの思惑があるようですが、今後関係してくるかもしれません。

参考URL

平成29年介護サービス施設・事業所調査の概況 2 居宅サービス事業所等の状況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service17/dl/kekka-gaiyou_02.pdf

豊島区 選択的介護モデル事業についてhttps://www.city.toshima.lg.jp/428/kaigo/1807100923.html

こちらの記事を読むとより2021年度介護保険改正法について詳しくなります

2021年度介護保険改正法が成立

著者紹介

藤尾智之(ふじお ともゆき)氏
税理士・介護福祉経営士
1996年、法政大学経済学部卒業
2000年、社会福祉法人に入職後、特別養護老人ホームの事務長として従事する。
2011年に税理士試験に合格し、大手税理士法人を経て藤尾真理子税理士事務所に入所。介護、障害を中心とした社会福祉事業に特化した経営サポートを展開する一方、社会福祉法人の理事や監事、相談役を務める。
著書に「税理士のための介護事業所の会計・税務・経営サポート」(第一法規)がある。
さすがや税理士法人URL: https://fujio-atf.jp/

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