介護事業お役立ちコラム

税理士・介護福祉経営士の【連載コラム】

社会福祉法人の指導監査に強くなる!「実地指導」は「運営指導」に改称へ

社会福祉法人は、原則として3年に1度、所轄庁の指導監査(法人監査)を受けます。この指導監査は、社会福祉法人指導監査実施要綱に基づいて行われます。指導監査は、一般監査と特別監査とに分けられます。通常行われるのは一般監査です。運営等に重大な問題がある場合には特別監査が行われます。なお、同日に、介護サービスの実地指導(運営指導)も行われます。法人及び介護サービスと指導内容のボリュームが多いため、朝9時から夕方4時くらいまでの時間をかけて行われます。この記事では、社会福祉法人だけに行われる法人監査について、わかりやすい埼玉県の例を見ていきます。

法人監査の対象は運営と財務

埼玉県の社会福祉法人は事前に、「社会福祉法人一般監査提出資料」である「自主点検表1 法人全般(運営及び財務)、自主点検表2 運営管理」を行政に提出しています。自主点検表1・2は合わせて、100ページ近くになります。しかし、そこに記載されている点検項目はいたってシンプルです。法令等に基づいて実施していれば、「いる」に〇を付け、基づいて実施していなければ「いない」に〇をつけるだけです。点検項目内容によっては、非該当という場合もあります。

さて、監査当日は、この自主点検表記載の各項目に沿って監査が行われますが、法人側は、根拠資料を使って法令などに則っていることを説明していきます。例えば、社会福祉法人にはかならず定款があります。その定款の通りに運営されているかが確認されます。

定款は日常的に見るものではなく、内容も忘れがちです。そのため、定款に記載されている役員等の総報酬額限度を超えて報酬を支払っていたり、理事会等の役員会を適切に招集していなかったりとミスしやすいものでもあります。役員報酬は、現況報告書という別の資料に記載されている役員報酬等の総額で確認されます。招集については、理事会の招集通知、次第、議事録等を併せて確認することで、適切に手続きが踏まれているのかどうかが確認できます。

理事等が退任しっぱなしでその後に選任(補充)されておらず役員の定数を満たしていないという場合もありえます。その場合、それまでの議決が無効になってしまう場合もあるかもしれません。そういう意味でも、定期的に行われる法人監査は大事なものであるともいえます。

運営について指摘されやすい(法人側にミスがある)事項

〇 規程集に、最新の規程がつづられていない。
〇 理事、監事、評議員に欠席者が多い。
〇 決算承認理事会と定時評議員会の期日の関係で2週間(中14日間)開けて開催していない。
〇 理事会や評議員会で、決議の前に特別な利害関係を有する役員等が議決に加わっていないかの確認を行っていない。
〇 評議員を選任する場合に、前もって理事会で評議員選任解任委員会の開催について決議していない。
〇 理事会が評議員会へ監事の選任に関する議案を提出する際に、監事ごとに同意を得た確認書類(各監事の同意書や理事会議事録に同意を得た記載)がない。
〇 理事長の職務執行状況についての報告が行われていない。この報告は理事会を実際に開催しなければできないこととなっており、書面での報告は行っても行っていないことになります。なお、コロナのため理事会がリアル開催できなかった場合については、柔軟に対応するように厚生労働省から事務連絡が発出されているのでこの限りではありません。
〇 施設長等の重要な役割を担う職員の選任及び解任について、理事会で決議していない。
〇 定款、役員等名簿、役員報酬基準が自法人のホームページに掲載されていない。
〇 理事長の重任登記、資産変更登記について、それぞれ定められた期限内で行われていない。

財務について指摘されやすい(法人側にミスがある)事項

〇 財産目録に記載される基本財産について、定款記載通りに記載されていない。
〇 現金や通帳、銀行届出印の保管について、一人の経理担当者が管理している。
〇 小口現金の上限を超えて管理している。
〇 現金収入を小口現金に混ぜて管理している。
〇 現金収入を経理規程に記載した入金日までに入金していない。
〇 現金収入について、領収書を発行していない。
〇 随意契約の場合について、原則3者以上から見積書を徴していない。
〇 自動更新の契約について、毎年、妥当性を確認し、理事会で承認を得ていない。
〇 寄付金を受けた場合に適正な手続きで収受していない。

今後の展開について

 介護施設や介護事業所に対して行われる実地指導ですが、令和4年度からオンラインによる指導も行われる予定であることから、実地ではない場合も考慮し、運営指導という名称に変更されます。コロナの状況を想定しつつ、かつ、指導の頻度を増やしたいという気持ちもあると思います。しかし、社会福祉法人の場合は、点検項目が多いことから実地が主体になると想定されます。社会福祉法人である以上、原則3年に一度の監査は必須です。来たる日に備えて日々運営を行っていきましょう。

参考資料

埼玉県 令和4年度実地監査用自主点検表(高齢者福祉施設)
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0606/fukukan-25-jicchi-tenkenhyo-korei.html [埼玉県のWebサイトが開きます]

介護保険最新情報Vol.1061(令和4年3月31日)「介護保険施設等の指導監督について(通知)の送付について」
https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2022/0404100312948/ksvol.1061.pdf [WAMNETのWebサイトが開きます]

こちらの記事を読むとより実地指導(運営指導)について詳しくなります

著者紹介

税理士藤尾智之先生

藤尾智之(ふじお ともゆき)氏
税理士・介護福祉経営士
1996年、法政大学経済学部卒業
2000年、社会福祉法人に入職後、特別養護老人ホームの事務長として従事する。
2011年に税理士試験に合格し、大手税理士法人を経て藤尾真理子税理士事務所に入所。介護、障害を中心とした社会福祉事業に特化した経営サポートを展開する一方、社会福祉法人の理事や監事、相談役を務める。
著書に「税理士のための介護事業所の会計・税務・経営サポート」(第一法規)がある。
さすがや税理士法人URL: https://fujio-atf.jp/

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